D-solo

ホワイト企業を一年でやめて自由に生きる人の日記。データサイエンスを愛し、生き方にこだわっています。

【解説】失敗の本質 ~適応の落とし穴~

こんにちは、d-soloです。


いきなりですが、ダーウィンが残した
“最も強い者が生き残るのではなく、
 最も賢い者が生き延びるのでもない。
 唯一、生き残るのは変化できる者である。”

という一説をご存知の方も多いのではないでしょうか。
私も含めて、「環境への対応が大事なんでしょ?」というくらいの認識の方が多いと感じています。
この一説の本当の深さとは、
「過去にどれほどうまくいっていた手法や考え方も、捨てなければならないときがある」
ということなのです。個人でも自身の成功体験を疑うのは難しいですし、組織になると実績のある手法を切り捨てるのは非常に困難でしょう。

少し前置きが長くなってしまいましたが、今回は「失敗の本質」(中公文庫 1984年出版)について解説します。
本書は、大東亜戦争(太平洋戦争の日本側の呼称、以下では太平洋戦争)における、日本軍の組織としての失敗を分析し、戦争に限らず私たちが学ぶべき組織の教訓として活用しようという狙いがあります。
まず、この時点で着眼点が面白いと私は感じました。

書籍「失敗の本質」の結論は以下になります。
「適応は適応能力を締め出す」

少し意外かもしれません。適応することが生き残る術じゃなかったのか!?
と思う方もいるかもしれません。
しかし、時代に即して作った「勝利の方程式」も時間の変化で
使い物にならなくなることは多々あります。

本書で指摘している日本軍の組織としての問題点について解説します。
次に、結論とのつながりについてまとめを話します。
最後に、d-soloなりの考察をつけたいと思います。
では、いきましょう。

日本軍の組織としての問題点

1.学習を軽視した組織

自由な議論が許されない風潮があり、軍人は決められたことを覚えて、その通り行動することが求められました。
これでは、未知の状況に対してどのように対処すべきか、といった準備はできず、教科書から外れた途端に戦況は厳しいものとなりました。
原因は、当時の教育システムにもあるでしょう。
日本の軍人教育では教官から習ったことが絶対であり、士官たちは用意された答えを覚えることが求められていました。
自分の頭で状況整理して、解決策を検討したりする機会は与えられず、そもそも検討することの重要性について考える機会もなかったかもしれません。

また、情報共有の範囲が極めて狭く、ノウハウについては直接話す仲間内の範囲に留まりました。
これでは、せっかくの戦場の経験を組織として、うまく蓄えることができません

2.あいまいな目標や指示をしない(命令に行間を持たせる)

一般に日本軍の目標はあいまいであり、どこを優先的に守り、どこを優先的に攻めるのかがわからないものが多かったのです。
中央の参謀と実施部隊の参謀の間で詳細を詰めることが通例だったようですが、「実施部隊の自由裁量を許容する」という方向で進められていました。
大規模な作戦においても、この「察し」を基盤とする意思疎通がまかり通っていたのは、総本部である大本営から伝えられる戦略目的があいまいであったからです。

戦況が厳しくなった場合に撤退を指示するときにも問題が起きていました。
大本営から撤退を明示的に命じては、実施部隊のメンツが潰れてしまうと案じ、
あくまで自主的に戦術的撤退をするよう促すために、
「撤退してもいいんじゃないか」くらいの連絡をするのみ留めることがしばしばありました。
このあいまいな指示により、撤退指示が遅れてしまい
不要なダメージを負ったことは言うまでもありませんでした。

結論とのつながり

日本は太平洋戦争の前、日清・日露戦争第一次世界大戦と負けることなく、うまく切り抜けてきました。
白兵戦では特に勇猛果敢で、他国から恐れられていました。
ここで日本は、勝ち方を学びました

しかし、第一次世界大戦から第二次世界大戦の間で、
戦い方に大きな変化が起きました。
軍事兵器の近代化です。
無線も、暗号解読技術も進歩し、日本の通信は簡単に解析されていました。
戦いの中心は航空機に移行し、艦隊同士での決戦はメインではなくなりました。

太平洋戦争では日本軍にとって、自分たちが経験した戦争で成功した方法を使って戦っても、成果が出なくなってしまっていたのです。
これが日本軍の組織としての失敗の理由のまとめになります。

d-soloの考察

現在の日本とも重なるところが多すぎて、本当に普遍的な内容なのだと感じました。
何度も、出版年を確認しましたが、36年前(1984年)の本です。

日本はこのあとバブル景気(ざっくり1986年〜)を迎えます。
それから崩壊と、長い長い低経済成長時代に向かいます。
つまり、私たちはこの書籍の後に日本の世界経済への台頭と、凋落を見ているわけです
それでも、組織としての普遍的な失敗は残っているのです。

日本では太平洋戦争に対して、軍事政権で進んだ結果の過ちであり、
今の日本の体制とは違う、といった認識があるように感じます。
実際は、軍事政権の失敗の特徴の多くは、今の組織にも当てはまるので、私たちは向き合っていかなければならないと思います。

最後に、非常に印象に残った一節を引用して締めたいと思います。

“予測のつかない環境の構造的変化が起こりつつある今日、
 ・・・中略・・・
 異質性や異端の排除とむすびついた発想や行動の均質性という日本
 企業の持つ特質が、逆機能化する可能性すらある。”

少し難しい書き口ですが、言いたいことは
「最近は変化が激しいので、ダイバーシティを認めないことが悪い方向に進むことになるかもしれない。」
ということです。
これは今のビジネス書にも山ほど書かれている内容でしょう。
36年前から問題に気づき、書籍まで出している人たちがいることにとても感動しました。

変化を認めて、新たな世界に適応し続けていきましょう。
適応能力こそが生き残るための唯一の武器なのですから。